展望台備え付けの望遠鏡をのぞいていたら、丸く抜けた景色の中を2羽の黒っぽい鳥が北へ飛んだ。出来過ぎ、と信じない人もいるだろう。ザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」であるまいし

 首都ソウルから片側数車線の自動車道を1時間、北朝鮮との軍事境界線近く、烏頭(山オドゥサン)統一展望台での話である。標高は118メートル。半島の北に源を持つ臨津江(イムジンガン)と南から流れる江漢(ハンガン)が目前で合流し、黄海へと注ぐ

 向こうは北朝鮮の宣伝村。白い複数階の住居がぽつりぽつりと見える。暮らしの豊かさを誇示しているらしい。経済成長を遂げた韓国人にとっては逆宣伝にしかなるまい。そう思うほかない簡素な造り。色は少ない。望遠鏡にあてた両眼をよくよく凝らせば、田畑の間の舗装されていない道を歩く人がいた

 韓国側、展望台の足元は観光地化している。恋人たちを当て込んだホテルが林立し、カモの焼き肉など名物料理を食べさせる店も

 川岸の鉄条網には切れ目がなく随所に監視所がある。川幅は狭い所で460メートル。このわずかの距離を越すに越せないのが南北計1千万人ともされる離散家族だ

 大戦の終結から70年、朝鮮戦争の休戦からも60年以上、民族の分断が続く。鳥なら、と何度願ったことだろう。「幾ら悪くても血を分けた家族の国です」。地元の人の言葉が耳を離れない。