とんとん、と慶事が続いた三好市の景勝地「大歩危」である。国の名勝に指定される一方、2017年には渓谷周辺の吉野川上流で、競技ラフティング世界大会が開かれることも決まった
 
 この機会にと先日、川下りの舟に乗った。風景を決定づける両岸の岩、少し細かく言えば三波川変成帯の結晶片岩なのだとか。中央構造線の南側を本州から四国を経て九州に至る岩の帯。渓谷、崖。とがった印象とは裏腹に、よく見れば表面は角がとれ、丸みを帯びている。増水のたびに削られてきたのだろう
 
 「徳島県の地学ガイド」(コロナ社)によると、南に発した吉野川は数百万年前まで、そのまま北流して瀬戸内海へと注いでいた。その後、阿讃山脈が隆起し、現在の三好市付近で東へ向きを変えた
 
 それから気の遠くなるような時間をかけて<両岸の山頂から見れば吉野川の川底まで約1000mも削られた>。歩危峡の誕生である
 
 「大股で歩くと危ないから大歩危、小股で歩いても危ないから小歩危」と舟のガイドさん。確かに「ほき」「ほけ」とは、こうした危険な地形を指すようだ。1889(明治22)年初版の辞書「言海」には<山腹ノ険シキ所>とある
 
 四国地方も梅雨が明けた。V字谷の底から見上げる夏空は逆三角形をしている。県内4カ所目となる名勝、百聞は一見にしかず。