雄ライオンのセシルは13歳。アフリカ南部ジンバブエの草原で暮らしていた。黒っぽいたてがみをなびかせる姿は、世界から年間5万人が訪れるワンゲ国立公園の目玉だ
ある日、セシルは餌を使って国立公園内からおびき出された。弓矢で狙われ、草原を逃げ回ったが、40時間後、ついに力尽き、銃で射殺された
絵本ではなく、残念ながら実話だ。セシルを殺した疑いが持たれているのは米国人歯科医で弓の使い手でもある。狩猟許可を取ってプロのガイドを雇い、おじいさんライオンの命を奪ったとされる
「許せない」。事件を知った米国民らの非難が殺到したのは当然だ。ジンバブエ環境相は「不法行為の責任を取らせる」と米国に身柄引き渡しを求めた
歯科医は声明で「人気者のライオンとは知らなかった」と釈明した。では、無名のライオンなら? 闇から闇に葬られたのではないか。考えさせられるのは、動物たちの命の重さである。当局は「ワンゲ国立公園の外でのライオン、ヒョウ、象の狩猟を中止する」と表明した。弓矢の使用も許可制にする
…セシルの死は、狩猟の在り方に一石を投じた。人々は娯楽で動物を殺すことの理非をよく考えるようになった。それから、かなりの歳月が要ったが、無駄に動物たちの命を奪う人はいなくなった…。絵本なら、そう結びたい。