初めてソウルへ行った1980年代の半ば、見上げた高層ホテルの名が「ロッテ」と聞いて驚いた。「ガム会社がまさかね。同名の韓国企業だろう」
まさかもまさか、ロッテは既に百貨店も経営していた。70年代の終わり、当時の朴(パク)正(チョン)煕(ヒ)大統領から「近代的ホテルを」との要請を受け、進出したという。それから35年余りがたつ。韓国では建設、石油化学なども手掛け、巨大財閥の一つにも数えられる
創業者の重光武雄名誉会長は92歳。辛(シン)格(ギョク)浩(ホ)という韓国名を持つ。いや、重光という日本名を持つといった方がいいだろう。20歳にもならない41年春、貧困に埋もれたくないと、植民地支配下の故郷・蔚(ウル)山(サン)を飛び出し日本を目指す
戦後は、東京でせっけんや整髪料の製造から始め48年、ロッテを設立した。社名は、ゲーテの名作「若きウェルテルの悩み」のヒロイン、シャルロッテに由来する。誰からも愛される会社に、との願いを込めた
「日本ほど人種差別のひどい国はない」。重光さんがそうこぼすのを聞いた人もいる。成功までの苦労は並大抵ではなかったはずだ
会社の経営権をめぐり、長男と次男の骨肉相食(は)む争いが起きている。韓流ドラマも顔負けの、世界企業らしからぬ騒動は「お口の恋人」の爽やかなイメージに傷をつけよう。ガムでもかんで、少し冷静になった方がいい。
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