<歴史とは、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話>と説いたのは、英国の歴史家E・H・カーである。きのう発表した戦後70年談話で、安倍晋三首相はしっかり過去と向き合えたか
 
 当初は「村山談話」や「河野談話」を上書きするつもりだったのだろう。安全保障関連法案や原発再稼働と不人気政策が続き、支持率が急落する中、そうもいかなくなった。連立与党の公明党への配慮から、安倍カラーを抑制したというのが、大方の見方だ
 
 過去の談話にあった「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」といったキーワードの行方が問題となった。いずれも首相の信念にそぐう言葉ではない。ただ、ご存じの通り、歴史を政治的に利用したい国もある。素通りできるわけはなかった
 
 戦争中の中国の苦痛をおもんぱかり、遠回しな表現ながら慰安婦にも触れた。韓国はきょう、植民地支配からの解放を祝う「光復節」。演説で朴槿恵(パククネ)大統領はどう応えるか。対中外交は進展するだろうか
 
 カーは、その経歴を外交官からスタートさせた。戦死者1千万人を超す第1次大戦を総括した、1919年のパリ講和会議にも出席している。会議から次の大戦まで20年。国際関係はかくももろい
 
 不戦を誓う安倍談話。美辞麗句に終わらせないために「ならばどうする」。焦点は、こちらに移った。