釈迦(しゃか)十大弟子の一人、目連(もくれん)は神通力で知られた人だ。持ち前の力であの世を見通すと、あろうことか、餓鬼道で逆さづりにされ、飢えと渇きにさいなまれる母の姿が見えた

 食物を差し出しても炎となって消える。そこで釈迦に教えられた通り、多くの僧に施しをした。ようやく母は救われた。その日が陰暦7月15日、先祖の供養をするお盆の起源である

 どうかな、との見方もある。物語を記したお経は偽物ともいわれる。それでも毎年、この時期、この話を思い出す。生きながら餓鬼道に放り込まれた人々の魂も、平穏に故郷に戻ったろうか、と想像しつつ

 全国戦没者追悼式に臨まれた天皇陛下は、お言葉の中に初めて「さきの大戦に対する深い反省」を盛り込んだ。戦後の繁栄は「平和の存続を切望する国民の意識に支えられた」とも。70年の節目の年、陛下の率直な思いなのだろう

 大戦で亡くなった軍人軍属は230万人。140万人が戦病死、多くが餓死だった。比較的慎重な研究者でも餓死者は60万との数字を上げる。味方の命さえ粗末にした、あの戦争の性格を如実に示す事実の一つだ。「深い反省」の言葉が胸に染みる

 謙虚に歴史の声に耳を傾ける。70年談話を発表した安倍晋三首相はそう述べた。すなわち、不都合な事実から目を背けないこと、と先哲の辞書にはある。