杉の丸太に乗り、竹ざおでバランスを取りながら川を下る。那賀町木頭地区の那賀川の恒例行事となった「木頭杉一本乗り大会」は、林業地帯の丹生谷地方伝統の技を今に伝える
 
 かつて、“一本乗り師”はトビ口一つを頼りに丸太で激流を下った。トビ口片手の江戸の火消しとは対照的な、水上の花形といえようか。下流で組まれた筏(いかだ)はさらに川を下る
 
 1956年の長安口ダム建設に伴い、陸路が木材運搬の主流になると、一本乗りは姿を消した。住民を驚かせたのは、那賀川の変貌ぶりである。大雨の際、崩れた山腹の土砂が貯水池に流れ込み、堆砂や汚泥で川が濁り始めた
 
 洪水調節機能があるダムができたにもかかわらず、豪雨の時に洪水被害が出るのだから、住民が怒るのも無理はない。堆砂がダムの機能を損なっているのは明白だ
 
 戦後、腐葉土を作り保水力のある広葉樹を伐採した後、成長の早い杉などの針葉樹を植えた。国のこの拡大造林政策が、山腹の崩壊を促したとの指摘は重い
 
 ようやく、国土交通省は抜本的な堆砂対策を講じる方針だそうだ。結果は出るんでしょうね? 「百年河清をまつ」思いはもうたくさん。何としても、きれいで安全な那賀川を子どもたちに残したい。死ぬまでに、もう一度、昔のような清流を見たいというお年寄りの声を聞いて、30年がたつ。