老子に「天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず」(広辞苑)の言葉がある。天は大きな網を張っていて、目は粗いように見えても悪人を漏らさず捕まえるとの意味である。大阪府寝屋川市の中1少女遺棄事件の容疑者逮捕劇は、この言葉を地で行く展開となった

 捜査本部は、遺棄現場や周辺道路、ガソリンスタンド(GS)などの防犯カメラの映像を詳細に分析して、容疑者の車を割り出した。点在している監視装置をつなぎ合わせて大きな網をつくり上げ、容疑者をからめ捕った

 最近では、防犯カメラ以外にも街中を自動的に録画する装置がある。車のドライブレコーダーだ。フロントガラスの内側に取り付け、運転席から見える様子を撮影する。交通事故の状況を記録するものだが、犯罪の瞬間を捉えることがある

 昨年11月、徳島市のGSのタンクに水が混入された事件では、犯行時間帯に回送していた高速バスのドライブレコーダーに容疑者の車が写っていた。これが容疑者逮捕の決め手となった

 自動的ではないが、スマホも街中を録画している。事件や事故の発生直後の様子は、居合わせた市民が撮影し、すぐにネットに投稿される。それには犯人が写り込んでいる可能性がある

 数多くのレンズは現代の「天網」だろう。その目は市民の生活を静かに見つめている。少し息苦しいぐらいに。