小学生の質問に、夏目漱石がこんな返事を書いている。1914(大正3)年4月24日、松尾寛一宛て。ご存じの方も多かろうが、短いのでほぼ全文を「漱石書簡集」(岩波文庫)から引いておく
 
 <あの「心」という小説のなかにある先生という人はもう死んでしまいました。名前はありますがあなたが覚えても役に立たない人です。あなたは小学の六年でよくあんなものをよみますね。あれは小供がよんでためになるものじゃありませんからおよしなさい>
 
 かつて大人と子どもは、まるで別の世界に住んでいた。今もその差は歴然としているが、境目は昔に比べてあいまいになっていないだろうか。携帯電話で会員制交流サイトやゲームに興じる姿は、その一例だ
 
 行動する時間帯も遅くなった。こんな時刻にと思っても、塾帰りだったりして、うっかり叱りもできない。とはいえ、日が変わりそうとなれば、いくら何でも疑った方がいい。即刻注意するか、でなければ警察に通報すべきだ
 
 事件は不幸な偶然が起こすものではない。残念ながらいつの時代にもある悪意は標的を探して歩いている。相応の覚悟で対処しないと、再びこれからの命が奪われよう
 
 夏休みも残りわずか。気を緩めてはいけない。「ためになるものじゃない」事物があふれる社会に、子どもは生きているのである。