選挙が近づけば、有権者も慎重になるだろう。だから、ひょっとしてとも思わない。だがやはり来年の米大統領選、共和党の候補者指名争いに名乗りを挙げる不動産王ドナルド・トランプ氏の勢いには驚く

 CNNの世論調査によると、党内の支持率は24%でトップを独走中。有力候補のジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事に11ポイントの差を付けた。しょせんは泡沫(ほうまつ)の、いつもの調子とはやや趣が違う。テレビ討論会の視聴者は史上最多の2400万人余りに上った

 メキシコ移民や女性を蔑視する過激な発言を繰り返し、政策面では移民対策として国境に巨大な壁を築くといった荒唐無稽な主張を掲げる。通常ならどれもこれもが、命取りになりかねないが

 どれもこれもが、既成政治に不満を持つ保守層の琴線に触れるらしい。気になるのは、日本にも批判のやいばを向けていることだ。安保法制を急ぐ安倍政権の後押しでもあるまいが、安保ただ乗り論を振りかざして人気を博す

 働いてお金をため、ささやかな家を買い、子どもを育てるという、ごく普通の人々の夢が奪われてしまった。ピュリツァー賞作家ヘドリック・スミス氏が憂う米国の現状である

 トランプ氏が支持される背景には、中間層の衰退や格差の拡大が潜んでいる。ならば同様の旋風が日本で吹き荒れても、おかしくはない。