沈黙するほかない写真がある。覚えておられるだろうか、「ハゲワシと少女」と題された1枚を。衰弱して地に伏せた子どものそばで、死肉をあさるハゲワシが、じっとその時を待っている
 
 1993年、スーダンで撮影された。内戦と飢餓が大勢の命を奪うアフリカの苦悩を象徴する1枚である。あの衝撃を世界はきちんと受け止められたか。撮影地・アヨドを含む南スーダンは後に独立したが、銃声はやまない
 
 今、1人の幼児の写真が世界を駆け巡っている。砂浜でうつぶせになった赤いシャツと青いズボン。動かなくなった3歳児を波が洗う。ギリシャを目指した小舟が転覆して5歳の兄、母と共に遭難した。シリア難民である
 
 国連難民高等弁務官事務所によると、アフリカ、中東からの移民や難民が急増している。今年に入って既に昨年1年間を上回る30万人に達した。シリア内戦の拡大が主な原因だ。年内に最大80万人が自国に流入するとドイツは予測する
 
 3歳児の写真は後ろ向きだったフランスの政策転換を促した。オランド大統領は言う。「人道上の責任として、欧州はできる限りの難民を公平に受け入れるべきだ」
 
 食料や薬といった援助物資も十分に届いていない。沈黙のその後に何ができるか。昨年、日本が認定した難民は11人。認定制度が始まって以来、最多らしい。