昭和の終わり、ある警察署の刑事課長から聞いた昇任試験をめぐる話だ。その課長は親しい警察幹部の元に試験のアドバイスを受けにいった
 
 「よう聞け、今度の試験はな」。幹部の重々しい口調に、課長は居住まいを正した。「大きい問題が三つで、小さいんが五つじゃ」。拍子抜けしながらも課長はメモを取り「どうも、ありがとうございました」。「おお、頑張れよ」
 
 課長が刑事課の部屋で鳴潮子にいわく、「ふた開けたら、ほの数さえ当たっとらんのじゃ、わっはっは」。「はっはっは、ほんで課長、試験には受かったんですか」「ほれが…」。課長は冗談好きで、この話を十八番にしていた
 
 明治大法科大学院の男性教授が教え子だった女性受験生に、司法試験問題を漏えいしたと聞き、耳を疑った。だが、公正さが命の法曹界にさえ不正はある。だからこそ、検察官や裁判官が必要なのだ
 
 法曹界で時折、目にするのが、ギリシャ神話の正義の女神テミスの立像。正義の天秤と力の剣を手に持ち、目隠しをしている。何ものにも公平に相対する法の象徴がテミスなら、男性教授は対極の存在だ
 
 くだんの課長は試験は不得意でも、公正で地道な仕事ぶりには定評があった。あの話は「邪心はもってのほか。正々堂々、職務に当たれ」という彼なりの部下への教えだったと思っている。