自殺と心の病は関係が深いとされる。しかし、病を得た人が全て自殺するわけではない。鍵を開くのは何か。「それは絶望です」と、徳島県自殺予防協会の近藤治郎名誉理事長は言う。「だから関わっていける可能性がある」
 
 「いのちの電話」で重荷を負った人の悩みを聞き始めたのが1979年。社会がまだ自殺に無関心なころだ。3年の間は、夫婦2人で昼夜をおかず受話器を握った
 
 自宅に訪ねてくる相談者も少なくはなかった。茶を一口含むやいなや、残りを窓の外にまき散らした人がいた。「こんなおいしい茶を飲んでいる人に何が分かるか」。高級茶だったわけではない
 
 人間関係や経済問題、体の不調と苦悩は人それぞれ、人の数だけある。人一倍の苦労を教科書に人生を送ってきたから、追い込まれた人の訴えが身に染みた
 
 「生きたいのにうまく生きられない。『死にたい』は困難な状況や山盛りある思いを、最も短く表現した言葉です」。誰からも見放されたと感じた時に、人は絶望する。大事なのは親身になって寄り添うこと。「よき隣人」となること。36年の経験である
 
 何も、できなかったかもしれない。でも何か、できたかもしれない。拳を固く握り締めたまま若くして時間を止めてしまった知人のことを思い出しながら、稿を閉じる。16日まで自殺予防週間。