ベニスを舞台にした映画「旅情」は1955年の作品である。ひと夏の大人の恋、キャサリン・ヘプバーンの知的な風貌を思い起こした人はもう落ち着いた年齢だろう
 
 当時50歳手前の彼女が演じたのは、念願の欧州旅行に出た米国の秘書。映画は、始まった早々、登場人物にこんなせりふを与える。秘書「もう、おばさんよ」。宿屋の女主人「年齢は財産だわ」。秘書「じゃあ財産家ね」
 
 ありがたいことに日本では財産家が増える一方だ。厚生労働省の調査では、全国の100歳以上の高齢者は、過去最多の6万1568人に上る。徳島県内でも500人近くが銀幕のヘプバーンの倍余りの資産を持つ
 
 県の65歳以上の高齢化率は、全国を10年先取りし、30%を超す。既に50%以上となった町もあるが、悲観してばかりはいられない。65歳以上は、もはや町の主役と言ってもいい。その経験をどれだけ生かせるか。これからの町づくりの課題だろう
 
 きょうは「老人の日」。「敬老の日」を第3月曜日に移すのに伴い、改名して記念日として残った。「老」の字に明るい印象はないけれど、知恵の集積とみれば光が見える
 
 続けて宿屋の女主人。「奇跡を起こすのは積極性よ。待つだけではだめ」。恋ばかりでもあるまい。生意気な物言いになるが、立て、65歳以上の者よ、とけしかけておく。