首相として、腹をくくって臨んだ安全保障関連法案には違いない。同時に高をくくってもいただろう。批判があろうと、たかがしれている、と
「早く質問しろよ」「まあいいじゃないか」。緊張感を欠くやじで陳謝に追い込まれる場面があった。こだわっていた中東・ホルムズ海峡での停戦前の機雷掃海は、自ら「具体的に想定しているものではない」と認めた
「安全保障環境が変わった」との決まり文句だけでは、なぜ必要かの疑問は拭えない。「そもそも違憲だ」と憲法学者や元最高裁長官、元内閣法制局長官は指摘した。国会周辺は抗議の声で埋まった。それでも、法成立へとひた走った
数は力。思い知らされる昨今である。その前には野党の抵抗もはかない蟷螂(とうろう)の斧(おの)にすぎない。安倍晋三首相の力の源泉となっている数を、憲法解釈すら百八十度変えて突き進む力を与えたのは、誰か
言うまでもなく、国民にほかならない。あの時の選択が今につながっているのである。法への賛否を別にしても、それぞれの持つ一票の重さを、忘れてはいけない
一時、支持率が落ちたとしても、来夏の参院選前までには回復するだろう。悲願の憲法改正に向けて道は掃き清められつつある-。勝手ながら首相の心情を代弁すれば、そんなところではないか。歴史の歯車がゴトリと動く音がする。