リードされて迎えた終盤も終盤、ロスタイム。桜のジャージーが左サイドいっぱいに飛び込んだ。逆転、勝利のトライ。ラグビー発祥の地イングランドで、ワールドカップ(W杯)の歴史に、日本がその名を刻んだ瞬間である
 
 この世界最高の舞台で17-145の大敗を喫したこともある。過去8回のW杯の成績は1勝2分け21敗。普通に考えれば、行方は予想するまでもない。相手は優勝2度の強豪、元日本代表監督が「生きているうちに勝てるとは思わなかった」と言う南アフリカである
 
 それが-。低くタックル、起きては次の密集、走って投げて蹴って。これほど雄々しい桜をこれまで誰が目にしたことか。「W杯史上最大の衝撃」と英紙。驚きの大きさを物語る
 
 かつてアパルトヘイト(人種隔離)政策をとっていた南ア社会をも揺るがすかもしれない。チームの立て直しが必要と受け止めた市民は「まだ黒人選手に十分な機会が与えられていない」と指摘する
 
 歴史的という文字がこれほど似合う試合もないが、ラグビーに番狂わせはないともいわれる。圧倒的な練習量で培ったその実力、8強入りも夢ではなかろう
 
 23日のスコットランド戦まで、応援組はしばし勝利の余韻に浸らせてもらうとする。ちょっと感傷的になりつつ。<ラグビーの頬傷ほてる海見ては>(寺山修司)。