諜報(ちょうほう)活動はいい加減な覚悟ではできない。1974年に「最後の日本兵」として帰国した元陸軍少尉の小野田寛郎さんは、戦後30年近く、フィリピン・ルバング島に潜んで残置諜者の任務を続けていた
情報将校を養成する陸軍中野学校二俣分校で、遊撃戦の訓練を受けた筋金入り。元上官から任務解除命令を受けて、ようやく帰国した。出迎えの父母と対面できたのは、神のご加護というほかはない
帰国後の記者会見で「お国が立派な国になっているだけで喜び。勝ち負けは考えないようにしている」と話した。日本人の心を揺さぶる言葉だ。生前、「人間は一人では生きていけない。家族や友人、日本と仲良くしてくれる国も大切にしなければ」とも語っていた
遠い記憶を思い起こしたのは、中国がスパイ活動の疑いで民間の日本人を逮捕したからだ。米国の女性実業家も国家機密を盗んだ疑いで拘束された。習近平指導部は思想統制のために外国人の監視を強めている。これでは気軽に旅行もできない
指導部の強権発動の対象は共産党有力者、少数民族、人権派、南シナ海の国々と手当たり次第の感がある。だが、国内でテロが続発する折、足元の人民を治めるのが何よりの務めだろう。唯我独尊では…。13億人の指導者に、「人間は一人では-」という小野田さんの言葉を贈りたい。