「つらい映画、重い作品でなければ、人生は見られない。人生って、そんなに素晴らしいものじゃないからね」。娯楽に走る映画界に仲代達矢さんが苦言を呈したことがある。名張毒ぶどう酒事件を描いた映画「約束」に出演した際のインタビューでのこと
素晴らしいものじゃない-。いや違う、と反論したいが、きのう、収監先の医療刑務所で死亡した奥西勝死刑囚の生涯をたどれば、そうも言えない
死刑判決確定後の43年間、大半を過ごした名古屋拘置所から無実を訴え続けた。3畳ほどの独房で、空しか見えないガラスの窓が一つ。朝になれば執行におびえ、夜になれば翌朝の執行におびえていたという
そんな毎日なのに、こんな信念を吐露したことがある。「死刑制度には賛成だ。罪を犯したら相応の罰を受けるべきだ」。その言葉に冤罪(えんざい)を確信した支援者がいる
半世紀以上前、三重県の山あいにある小さな集落の公民館で起きたこの陰惨な事件は、異例の経過をたどった。一審は無罪、高裁で逆転し1972年、死刑が確定した。2005年には「犯人とは推認できない」と高裁が再審開始を決定。しかし取り消された
裁判所の対応は、「疑わしきは」の原則にかなっていたか。その扉があまりに重ければ、真実は見られない。「司法って、そんなに-」とは言いたくないが。
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