年間3億人に投与され、多くの命が救われている-。これほどの薬の生みの親である日本人を、恥ずかしながら、きのうのあの瞬間まで全く知らなかった
 
 今年のノーベル医学生理学賞に、大村智・北里大特別栄誉教授が選ばれた。「微生物のすごい能力を引き出そうとしただけ。自分が偉い仕事をしたとは思っていない」。受賞コメントの謙虚さに、その人柄がしのばれる
 
 微生物の力を借りて、寄生虫に高い効果のある薬剤「イベルメクチン」を開発した。失明にも至る熱帯病のオンコセルカ症や、象皮症の名のあるリンパ系フィラリア症。アフリカや南アジア、中南米など、貧しい地域の人々を脅かしている病の特効薬である。鍵になった微生物は国内のゴルフ場で採取したという
 
 以前取材した南部アフリカの人たちの顔が浮かんだ。薬の恩恵を受けている人もいただろう。不十分な医療環境を少しは知るだけに、大村さんの業績の大きさを思う
 
 世界保健機関によると、薬のおかげで、いずれの病気も遠からず撲滅できる見通しになった。毎年数億人を苦しめる熱帯感染症と戦う新たな手段を人類に与えた、との受賞理由がすっと胸に入ってきた
 
 「何か一つでも人のためになることができないか、いつも考えてきた」。次代の研究者のともしびともなろう。日本の底力を見た思いだ。