新婚生活はどう?と冷やかされた覚えはあるが、何と答えたか全く記憶がない。やぼな会話を記録する酔狂もいない。それが、天皇陛下となるとちゃんと残る。少し、お気の毒な気もしてしまう

 26歳の誕生日を前に「新婚生活のご感想を」と問われ「悪いものではないですね」と一言。はにかんだお顔が浮かぶ。結婚から8カ月。皇后さまは皇太子さまを宿していた

 気の早い記者たちは「教育方針は」「心構えは」と問う。わが身なら、余計なお世話だと言い返すが、立場上、そうはいかない。「実際に抱いてみなければ」と困惑しながら、こう言われた

 「おもうさま、おたたさまの言葉は今まで通り使い、高校ぐらいまでは手元で育てたい」。おもうさまは父、おたたさまは母を指す宮中言葉。宣言通り、お子さま方は両親をそう呼び、一つ屋根の下で育った

 一般と違うのは、屋根がとても大きい上に、超多忙なご両親だけでは細部まで目配りができないことだ。しつけや教育は担当の侍従だけでなく、身の回りのお世話をする多くの宮内庁職員にも頼らざるを得なかった

 元職員は「大家族のよう」と振り返る。お花見や餅つきは、職員たちと共に楽しむ。皇后さまも、当時を「合宿所のよう」と懐かしがられるという。ご結婚から60年。記録に残らない記憶がその歳月を彩っている。