「おうおう、この桜吹雪を忘れたのかい」。威勢のいいたんかとともに、遠山の金さんがもろ肌脱げば、鮮やかな桜吹雪が背中に舞う

 芝居小屋なら「待ってました」と大向こうから声が掛かりそうなシーンは、何度見ても小気味いい。よもや、あの遊び人の金さんが、江戸の町奉行遠山金四郎の仮の姿とは。悪党が気づいた時には後の祭り。裁きを下した金さんが「これにて一件落着」と宣言すれば、茶の間の家族の心は日本晴れだ

 時は21世紀。舞台を江戸のお白州から英国の競技場に移して、ついに、日本人がたんかを切る時が来た。「この桜のジャージーが目に入らぬか」。ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会の大舞台でだ。1勝止まりなら、気が引けてたんかも切れないが、日本は1次リーグで3勝を挙げた。目標の8強進出は逃したものの、地力は十分、世界を瞠(どう)目(もく)させる奮闘ぶりだった

 桜はただにきれいで散りやすい花ではないことを、世界は知ったはずだ。<敷島の大和心を人問はば朝日ににほう山桜花>本居宣長。胸の桜のエンブレムの下には、大和心が息づいている。たとえ、外国出身でも心は一つだ

 日本の戦いはノーサイドだが、「これにて一件落着」ではない。4年後の舞台は日本で、地の利は十分。世界制覇も夢ではないと今、胸を張って言える。