読み手を裏切ってやろう、と欲を出せば考えに行き詰まり、結局は月並みな結論になるか、はたまたひねり過ぎて、どうにも訳が分からなくなるか
この時節「天高く馬肥ゆる秋」なんて言葉を持ち出してみる。ああ、きっと食欲の秋のことでも書くのだろう、と想像しませんでしたか。しかし-。いかにもの線で勝負して、読者をうならせるコラムが書ける人は相当の名人だ
というわけで、勝負を避けて「知っていますか」と問うてみる。実は「馬肥ゆる」、もともとは警句だった。仕入れたばかりの知識をひけらかしてと、これまた痛い所を突かれそうだが、まあ、そう言わず
中国、その昔。馬上の戦いを得意として、北辺をたびたび脅かした騎馬民族が来襲するのは、馬が肥え太る秋だったそうだ。唐代の詩人杜審言(としんげん)が出征した友に贈ったという詩にある。<秋高くして塞馬(さいば)肥えたり>。戦いの時がきたぞ、警戒を怠るな。この人、詩聖・杜甫(とほ)の祖父である
大気は澄み、空高く晴れ渡る秋。「天高く-」が、好時節を表す言葉になるまで、何度もの戦いがあって、逃げ惑う民がいたのだろう
剣山の紅葉は、標高1420メートルの見ノ越付近まで下りてきたようである。程なく秋は、赤や黄に里を染める。来襲するのは、食べ過ぎの末の過体重ぐらいか。とりあえずの平穏無事に、感謝。