「これ好きだな」と友人が車いすを止めた。基調は赤と黒、グレー。青やピンク、黄緑、オレンジが画用紙を舞う。水彩絵の具が下地のクレヨンにはじかれて水玉の滝のよう。絵心あふれる彼らしい選択だ。確かに面白い
障害者芸術祭「エナジー2015」、阿南市の障害者支援施設「淡島学園」の22歳、橋本翔太さんの作品である。題名は-。「えっ『おとうさん』なの」。よくよく聞けば本当は「おじいさん」らしい。いずれにしても?
「一般の抽象画展に並んでいてもおかしくないね」。そんな言葉にはっとした。障害者の絵なら、分からなくて当然。それで済ませようとした己のぶしつけさ。この絵に有名画家の名前でもあれば、平伏したくせに
学園で美術を指導している画家銭谷誠さんに聞いた。やりがいはありますか? 「あります、あります」。丸も描けなかった人が、どんどん成長する。「まるで新しい回路が生まれたように」。日々の生活でも、できることが増えていく
絵筆は、新たに手にしたコミュニケーションの手段なのだろう。自分を託す色の一つ一つ、偶然のようで必然、必然のようで偶然。「それが絵というものですよ」と銭谷さん
見応えのある作品が多い芸術祭。一度、心の曇り具合を確かめてみるのも悪くない。徳島市の県立近代美術館で25日まで。