真っ暗な部屋に閉じ込められて、極度の空腹の中、マッチの炎ほどの小さな命は燃え尽きた。斎藤理玖ちゃん、死亡当時5歳。声が出せれば叫びたかったろう。「誰か助けて」と。判決を聞いて再び胸がつまった
 
 神奈川県厚木市で昨年、死後7年以上たった男児の遺体が見つかった事件である。殺人と詐欺の罪に問われた父親に、横浜地裁は懲役19年の判決を言い渡した
 
 弁護側は保護責任者遺棄致死罪を主張していた。だが、そんなまどろっこしい罪名で済ませていいものか。理玖ちゃんがひどく衰弱し、医師に診てもらわなければ死亡する可能性があったのを知りつつ、放っておいたのである
 
 「唯一すがる存在だった父親から食事を与えられず、ごみに埋もれた不快な環境に放置され、死亡した経緯は涙を禁じ得ない。残酷さは想像を絶する」と裁判長は述べた。殺人罪の適用は妥当だろう
 
 行政の対応が問題視された事件でもある。異変のサインは何度かあったのに、教育委員会や児童相談所は見逃した。「周囲が全く無関心だったことが、事件の最大の要因だ」。裁判員を務めた40代女性は指摘する。その通りだと思う
 
 存在を誰も知らない。死んでからも7年以上、暗闇の中で独りぼっち。これを孤独という。5歳児が味わっていいはずのない感情である。事件を忘れてはいけない。