その時の記憶はもう書くまい、と決めていたのだが、あと一度だけお許し願う。初めて韓国を訪れた30年前のことである

 泊まり歩いた学生の下宿で、日本の軍国主義、果ては秀吉の朝鮮出兵を議論しても、いわゆる従軍慰安婦で立場を問われたことはなかった。慰安婦問題とは、1990年代に「発見」された比較的新しい課題だ

 新しいといいながら残された時間はあまりない。元慰安婦が生きているうちに解決を、と韓国の世論が沸騰するのも無理はない。しかし…。本来、加害者側が使うべき言葉ではないが「もう少し冷静になろうよ」

 というのも、今夏、久方ぶりにソウルを訪れた時のことだ。日本大使館前で慰安婦像を見た。そばに掲示されていたスローガンを案内の人に読んでもらった。「対馬は韓国領だ、とありますね」。耳を疑った

 3年半ぶりの首脳会談で、日韓両国は慰安婦問題の交渉を加速させることで一致した。進展は容易ではあるまい。「対馬は-」といった対日抗議団体が影響力を持ち、マスコミがあおる現状がある。日本の嫌韓も相当だから、これではまとまるものも、まとまらない

 隣国同士、仲良くした方が得策と双方の大方の国民が思っているだろうに、過激な論調が力を持つのはなぜか。出会った学生は話せば分かるいいやつばかりでしたよ、本当に。