地中海に似つかわしくない大嵐の日だった。マルタ島に停泊中の客船マキシム・ゴーリキーに乗り込んだのは、ブッシュ米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長。風速は20メートルに達し式典は中止された、と1989年12月3日付の本紙は伝えている
マルタ会談と呼ばれるこの会合で、両首脳は東西冷戦の終結を宣言した。文字通り歴史的な首脳会談だった
こちらも「歴史的」には違いないのだが、そう言うには引っ掛かるものがある。中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで行った首脳会談である。どうしてか、と考えた
首脳が握手を交わすのは49年の中台分断後、初めてとなる。それだけの重みが感じられないのは、双方の主張の隔たりがあまりにも大きいからだろう。互いに自らが唯一の合法政府との立場だから、距離を縮める成果など、期待できるわけはなかった
マルタ会談の2年後、ソ連は崩壊した。14年後、大統領の息子はイラク戦争の旗を振った。冷戦終結を歓迎したのもつかの間、世界は流動化し、テロという新たな脅威に直面している
中台関係の先行きも、いまだ不透明である。台湾海峡を波立たせることなく、会談を機に、さらに平和的にいってもらいたいもの。と、そういえばゴーリキーの代表作は「どん底」だった。嫌なことを思い出した。