そろそろ色付いたかと香川県は五色台、白峯(しろみね)寺(じ)を訪ねた。坂出市青海町の四国霊場81番札所、標高300メートル弱の参道から望めば、初冬の海に瀬戸大橋がくっきりと
 
 山門をくぐって護摩堂の前を左へ折れ、そのまま進むと平安時代末期、保元の乱に敗れ、讃岐に流された崇徳上皇の廟(びょう)所・頓証寺殿(とんしょうじでん)。並ぶお堂を脇に、石段を上がれば本堂に至る
 
 親しかった西行法師が、陵墓の前で歌を詠み、怨霊となって荒れ狂う上皇の魂を鎮めた。<よしや君昔の玉の床とてもかからん後は何にかはせん>。かつての栄華も今となっては何になりましょうや。成仏なさいませ。江戸は上田秋成の「雨月物語」から
 
 紅葉は、見頃にはやや早かった。近くの名刹(めいさつ)、82番・根香寺(ねごろじ)(高松市)も、これからといったところである。とはいえ、色、姿、眺めて飽きない木々もちらほらと。納経窓口の女性に聞けば、全山一斉とはいかず、一本一本で赤みの増す時は異なるそうだ
 
 「いつがいいか、と問われて毎年、答えに困る。私は阿弥陀(あみだ)堂の前の紅葉が好き。西日を受けると、この世のものと思えない美しさです。あれなら、もう少し」
 
 最上の頃もいいけれど、ほどほど、これもまたよし。再び、の楽しみもある。明代の処世哲学書「菜根譚(さいこんたん)」は記す。<花は半開を看(み)、酒は微酔に飲む、此(こ)の中に大いに佳趣あり>。