「サティスファクション」は英ロックバンド、ローリング・ストーンズの代表曲だ。その冒頭は<アイ キャント ゲット ノー サティスファクション>。「まるで満足できない」などと訳されている

 ”謎”はサティスファクションの前の「ノー」。ありもしない満足。それを前のキャントで否定している

 否定の否定は肯定ではなかったっけ。「満足できる」とならないのはどうしてか。疑問が湧いて、はや30年余。「英詞を味わう 洋楽名曲クロニクル」(三省堂)をめくっていて、ようやく氷解した

 <二重否定を用いて否定の強調としたところに、ストーンズのR&Bへの傾倒が見て取れる>。黒人音楽の歌詞に、頻繁に登場する砕けた用法だそうだ。なるほど、すっきりした

 英語をきちんと勉強した人にとっては、きっとお笑いぐさだろう。筆者の程度も知れるというもの。ただ同書によると、大学教授でも誤訳する人がいたらしいから、恥ずかしさも、まあ中くらいである

 文を書くということと、恥をかくということが同じ意味を持つ場合がある。読む人が読めば趣味から知的水準まで丸分かりだ。ブログやSNSなど情報発信が盛んになった昨今。知らない間に、知られたくない自分の姿までさらしてはいませんか。よくよく注意して書いた方がよさそうですよ。お互いに。