フランスに出張していた友人が、珍しいチーズを買って帰った。「エポワス」という。その極めて個性的な香りは、ブタのひづめの間の臭い-嗅いだことがあるよ、という人はまれだろうが-に例えられているのだそうだ
 
 かつて、かのドゴール大統領が嘆いたと、どこかで読んだ。「200種類ものチーズを持つ国を統治するのは難しい」。200どころでなかった気もするが、とにかく、村ごとに違うといわれるほど、その数は膨大らしい
 
 実際、<フランスは300種類のチーズの国と呼ばれている>と在日大使館のサイトにある。仏文化の多様性を示す象徴的な事例だろう。自由、平等、博愛。トリコロールの国は今、無軌道なテロに揺れている
 
 第2次大戦でドイツに占領された際、イギリスのチャーチル首相が言ったという。「こんなに多くのチーズを作れる国が滅びるわけはない」。ならばテロにも屈するわけはない
 
 海の向こうの話ではあるまい。足並みをそろえて抗していかなければ。できる限りのことをやらなければ。日本も標的になっている
 
 「エポワス」は、それが生まれたブルゴーニュ地方の小さな村の名前。だからか、ものの本によると、ブルゴーニュワインとの相性は抜群だとか。「当たり年」のボジョレも解禁された。今夜いただく赤は、少々重めかもしれない。