「次こそメダルを得たい。準備は順調に進んでいる」。来年のリオデジャネイロ五輪に向け、インタビュー記事からは心技体の充実ぶりがうかがえる
男子ライフル射撃の日本代表に、県人の山下敏和選手=自衛隊、小松島高-中央大出=が正式に決まった。2008年の北京五輪以来、2度目の代表である。内定は5月に得ていたが、やはり胸にこみ上げてくるものがあるだろう。あらためて、おめでとうと言いたい
ライフルは、体を「止める」スポーツである。動かすのは引き金を引く指先だけ。銃身に響くため、心臓の鼓動すら「止めたい」と思うほどだ。心が動いて早鐘を打つようでは話にならない
銃ならぬ弓の天下一を目指す物語に、中島敦の「名人伝」がある。厳しい修行を積んで奥義を会得した男が、さらなる高みを求めて山へ。9年後、精悍(せいかん)だった面構えが無表情になった男を見て、師は「これぞ天下の名人」と叫ぶ。しかし、男は「究極の射は射ることではない」と話し、以降、弓を手にすることはなかった
名作だけに、さまざまに解釈ができる。ずしりと残るのは、感情を超越した精神性や、技術の高みの向こうへ道を究めていく覚悟だ
山下選手も、そうした道を歩んでいるに違いない。銃を手にした「われらが名人」は、どこまで昇っていくのか。来夏が楽しみだ。