徳島空港に降りると来訪者はまずえびす人形を持った2人の阿波女の大きな写真を目にすることになる。阿波木偶箱まわし保存会の中内正子さんと南公代さんである。彼女らが守る「三番叟まわし」は今年、県の無形民俗文化財に指定された

 正月、家々を回って無病息災や家内安全を祈る古くからの門付け芸も、やがては消える運命にあった。部落差別と深く結びついた文化だったからだ。戦後、社会が豊かになり始めたころ、人形の遣い手は芸の伝承を拒み、子は親の形見の道具を捨てた

 三番叟まわしは悲しみを宿した芸である。<木偶を、孫に見せたらあかん。「うちの家にエビスさんあるんじょ」と孫が学校で一言でも言うたもんなら、孫の将来の縁談にどんな差し障りがあるかわからんから、絶対あかん>(「阿波のでこまわし」辻本一英)

 聞き取り調査でその価値を再発見した中内さんらが、渋る「最後」の現役に、半ば強引に弟子入りしたのは1990年代も終わりのこと

 一昨日、徳島市で保存会結成20年の記念公演を見た。年々、芸に磨きがかかるが、道に終わりはあるまい。先人の苦悩や確かに存在した豊かな文化を伝えるためにも

 中内さんは舞台で語った。「平和や人権が大切にされる社会にしたい」。海外公演を重ねる人気芸人になっても、決して初心を忘れない。