出勤し帰宅するまで、土を踏まずに一日が成り立つ。農林業や土木建設業の人は別として、土と交わることなく生活する人は多かろう
生涯の時間を計算しても、アスファルトやコンクリートの上にいる方が圧倒的に長くなりそうである。少々わびしいが、小さな頃に遊んだあぜ道まで舗装されては、わずかな庭の土に、その感触を思い出すぐらい
先日まで知らなかった。今年は「国際土壌年」、きょう12月5日は「世界土壌デー」。土の大切さなど忘れていた。土に近い徳島に暮らしていてさえ、こうである
土と環境に詳しい陽捷行(みなみかつゆき)北里大名誉教授は、近著「18cmの奇跡」(三五館)で説く。18センチは人が生きるために使える土壌の厚さ。1センチ成長するのに100年から1000年かかる、この土壌が現在、危機に直面している
史上、土を顧みない文明は衰退した。巨大かんがい施設、品種改良と機械、化学肥料、農薬の使用で収量を増やしたものの、土壌に過度の負担をかけている現代も、また同じ道を歩んでいるようだ
一さじの土に息づく億を超える微生物に助けられ、植物は育つものだという。<人間は土から生まれた物を食べている、土の生きものなのである>(同書)。グローバル化で経済優先に拍車が掛かる昨今。自然のしっぺ返しの大きさを、頭に入れておいた方がいい。