もう一度、見たいと思っていながら、テレビ番組欄にそのアニメのタイトルを見つけると、「やっぱり見るのはやめておこう」と二の足を踏む自分がいる
あまりにも悲しすぎて、覚悟を決めないと向き合えない。神戸大空襲で焼け出された兄妹の絆、そして死に至る苦難を描いた名作「火垂(ほた)るの墓」だ
原作者の作家野坂昭如さんが亡くなった。空襲体験を文学に結実させた野坂さんは「ぼくはせめて、小説『火垂るの墓』にでてくる兄ほどに、妹をかわいがってやればよかったと、今になって、その無残な骨と皮の死にざまを、くやむ気持ちが強く、小説中の清太に、その想いを託したのだ」と記している
食べ物もなく、衰弱してあの世へ旅立った節子は、誰かに似ている。長い間、そう思いながら、答えが見つからなかった。野坂さんの訃報に接し、心に浮かんだ節子の顔に、ふと、重なったのは、第2次大戦で犠牲になった子どもたちの物言わぬ顔だった。子どもとて言いたいことはあったろう
節子は4歳だが、前述の妹はもっと幼い。それでも、おじいさんになった野坂さんの戦後の積もる話が、天国で待つ妹には温かさをもって伝わると思われてならない
「焼け跡闇市派」を名乗った野坂さんは終生戦争の罪を問い続けた。私たちも問い続けたい。世界中の清太と節子の分まで。