3年後の2018年は、ベートーベン「第九交響曲」のアジア初演100周年に当たる。鳴門市などが記念事業を計画しているという
暮れの風物詩ともなっている日本では、西洋音楽の中でも殊のほか第九への思い入れが強い。他国では、さてどうだろう。「アジア」と銘打つことに、どれほどの価値があるか疑問もなくはないが、初演までの経緯はアジアどころか、世界に誇るべき事実といえる
第1次大戦時、板東俘虜(ふりょ)収容所での松江豊寿所長の人道的措置が、捕虜による初演につながったことはよく知られている。これには前史がある
「板東」をさかのぼること10年余り。日露戦争時、愛媛県に開設された松山俘虜収容所の厚遇は、広く伝わっていたようだ。ロシア軍の兵士が「マツヤマ」と叫びながら投降してきたとの話もある
不平等条約を改正して一等国に。そのためには他国に付け入る隙を与えぬよう国際法を順守せねばならぬ。といった事情が「マツヤマ」にはあったにせよ、「板東」を含めて、まだ貧しかった時期の人の心のありさまや国際感覚に、学ぶべきことは多かろう
100周年となる3年後、間に合わなくても近い将来、人道主義の旗を高々と掲げる国として、歓喜をもって世界から迎えられる日が来ようか。運命は、私たち国民の手中にあるというべきだろう。
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