かつて大みそかは、1年あるいは半年間のツケを清算する日だった。取り立てや支払いをめぐる人間模様を描いた落語の名作に「掛取り」や「富久」がある

 掛取りは、借金取りの趣味に話を合わせて、支払いを繰り延べてもらう噺だ。八五郎は、狂歌好きの大家には貧乏を詠んだ作品を披露し、歌舞伎好きの酒屋の番頭には芝居調子で受け答えする。巧みなやりとりが楽しいが、現代の世知辛さに思いをはせてしまう

 「はらい」をオチにしたのが富久である。久蔵は年の瀬、なけなしの金で富くじを買い、札を神棚にまつる。くじは大当たりするが、家が全焼して肩を落とす。ところが、とびの頭が神棚を運び出していて札は無事。「大神宮様のおかげ、ご近所にお払(祓)いいたします」

 きょう、年末ジャンボ宝くじの抽せんが行われる。1等と前後賞を合わせて10億円は史上最高だ。「もし当たれば、家のローンを一気に払って…」と皮算用するご仁もいるだろう

 小欄もそんな一人である。だが、当せんは気が遠くなるほど低い確率であり、久蔵のようにうまくはいかない。もちろん、火事はごめん被りたい

 庶民のささやかな夢を詠んだ狂歌がある。<たのしみは春の桜に秋の月夫婦中よく三度くふめし>(花道つらね)。あしたの初詣では、宝くじより、こちらを願うことにする。