1950年代、アメリカ。既存の価値観に疑問を呈し、強烈な異議申し立てをしたのが「ビート・ジェネレーション」と呼ばれた若者たちだ
故ジャック・ケルアックさんの自伝的小説「路上」は、ビート族のバイブルともされた。大陸を放浪する登場人物を、息も継げぬほどの勢いで描く文字の洪水が、河出文庫版ならば最終436ページまで続く
海を越えたイギリスで、この新しい波を受け止めたのがデビッド・ボウイさんである。戦後生まれだから、高校生だったか。<前途は遠かった。しかしそんなことはどうでもよい。道路が人生なのだから>(「路上」福田実訳)。世界を魅了したロックの原点と言ってもいいのだろう。後年、推薦図書にも、この本を挙げている
<何度も何度も変化して変化するんだ/向きを変えて見知らぬ自分に直面してね/変化するんだ/いちいち悩んでないで早く大人になれ、なんて言わないでくれ>(ピーター・バラカン訳)
性別さえ超えた斬新な装いで一世を風靡(ふうび)した、70年代初頭の「グラムロック」時代の一曲「チェンジス」はこんな歌詞だ。多くの人を引きつけたのは奇抜な外見ばかりではあるまい
いつまでも立ち止まっていていいのかね、道は続いているのに。わが身を省みつつ、死の直前まで変化への意欲を失わなかった希代の表現者を送る。