子どもたちの健やかな成長のために

母子健康手帳といっしょに健口手帳を!/徳島県歯科医師会

松本 侯/徳島県歯科医師会理事・地域保健部部長

徳島県歯科医師会では今回の条例において「妊娠期と乳幼児期の歯科保健対策」「糖尿病を意識した歯周病対策」「患者の口腔ケアといった地域連携の推進」の3つのテーマに取り組んでいます。一見するとこれら3つのテーマは対象年齢も目的も違っているように思われがちですが、実はそれぞれのライフステージにおいて「歯・口腔の健康は全身の健康に関係する」というキーワードで深く結ばれています。

そこで私たちが、県からの委託を受け最初に取り組んだのが、すべての始まりとも言える妊婦さんを対象にした取り組みです。まず歯科医師会の中に母子保健検討委員会を立ち上げ、徳島大学日野出教授をオブザーバーに、歯科医師・歯科衛生士それぞれの立場から意見を出し合い、「健口手帳」作成することになりました。「健口手帳」は、妊娠期から乳幼児期まで、子どもの成長に合わせて歯科保健の知識と予防を分かりやすく学習することができる、いわば“歯の便利手帳”で、今年の9月から母子健康手帳と一緒に配布しています。

また、当会が同時にスタートさせたのが「出張・歯科保健セミナー」です。行政や産婦人科等で行っているパパママ教室に、その地域の歯科医師と歯科衛生士が出向いて、妊婦時期から母子の歯科保健の大切さに気づいてもらい、歯周病対策として妊婦の生活習慣の指導などを行っています。その先には正しい生活習慣を身につけたお母さんが育てた子どもが成長すれば、糖尿病患者数も減少するのでは…という将来的な展望も含まれています。

この取り組みこそ2つめのテーマ「糖尿病を意識した歯周病対策」のスタートだと位置づけています。そして、地域のセミナーに参加することは、産婦人科医、保健師、助産師、歯科医師等、さまざまな地域の医療職者と触れ合う機会であり、子どもの成長を見守ってくれるかかりつけ歯科医へと発展する可能性も秘めています。

これが3つめのテーマ「患者の口腔ケアといった地域連携の推進」です。当会では今後も積極的に3つのテーマに取り組み、歯と口腔の健康を通して、県民の皆さんの健康をサポートして参ります。

妊娠期は歯と体の健康を見直すチャンスです

日野出 大輔 徳島大学教授

近年、歯と口腔の健康が体全体の健康に深く関わっていることが、さまざまな臨床研究と疫学研究から明確になっています。もちろん、年齢や生活環境によって病気の予防や対策方法は違ってきますが、私たちは早くから妊娠期の歯科保健に着目してきました。

数年前、徳島県歯科医師会と徳島大学が共同で調査と分析した結果、下記のようなことが分かってきました。妊婦は女性ホルモンの分泌量が増加し、口腔環境の変化や心理的要因などとも相まって、口腔内の病気が悪化するケースが多く見受けられます。

アンケート調査では口腔内に不満や不自由を覚える人が61.4%、ブラッシング中に出血があると答えた人は51.4%、4㎜以上の歯周ポケットを有する人が40.7%という高い結果となりました。それにも関わらず、子どもの出生数に比べて、市町村での歯科の健診や指導を受けているお母さんは全体の5分の1しかいないのが現状です。

以前にノースカロライナ大学が発表した研究結果では、歯周病と低体重児出産の関係において、歯周病が進行すると低体重児のリスクが7倍にもなると報告されていましたが、我々の調査においても、妊娠期にタバコを吸うと6倍、歯周病においては3倍のリスクがあるという結果になりました。

また、むし歯菌を多く保有しているお母さんから生まれた子どもは、乳歯がむし歯になりやすいことも分かっています。これらの数字を見ると、妊娠期の生活習慣と歯科保健が生まれてくる赤ちゃんにどれだけ影響を及ぼしているのかを認識していただけるでしょう。そのために必要なのが妊娠期から信頼できる「かかりつけ歯科医」を持ち、適切なケアと指導を受けることです。

妊娠した女性にとって妊娠期は、人生において最も健康について敏感になる時期です。それまで自分の健康について考えたことがなかった人でも、産まれてくる赤ちゃんは健康であってほしいと願うはずです。我々はそんな特別な時期を“絶好のチャンス”ととらえ、行政、大学、歯科医師や産婦人科医師など、地域の医療関係者と連携しながら、積極的にアプローチしていきたいと考えています。