四国霊場八十八カ所巡りは、全長約1400キロの道を弘法大師空海と共に歩く「同行二人」の旅だ。ところが、死者の年齢の数だけ逆に巡れば、死者がよみがえる。そんな禁断の「逆打ち」を筋立てに展開するのが、高知県出身の作家・故坂東真砂子さんの小説「死国」である

 もちろん現実の世界では、逆打ちをしても死んだ人は帰ってこない。それどころか、うるう年の逆打ちは特に御利益が大きいそうで、今年は人気だという

 筆者は休日を利用したマイカー遍路を始めて10年。1番札所・霊山寺から「順打ち」を始めたが、いつしか足の向くまま気の向くままの“乱れ打ち”に転じ、いまだに結願できていない。なのに今年はひとつ、御利益の大きい逆打ちもと凡俗の身に煩悩は尽きない

 その逆打ちは、伊予の長者衛門三郎が、訪ねてきた托鉢(たくはつ)の僧の鉢をたたき割ったことに起因する。次々に子どもを亡くした三郎は、僧に会って許しを乞おうと逆打ちを重ねた。12番札所・焼山寺の近くで三郎は倒れ、死の間際に、現れた大師に許されたそうな

 きのうは立春。やがて、四国路は白装束の遍路の季節。札所を巡り健康を取り戻したとの声も聞く。死者は無理でも、病人をよみがえらせる四国はやはり生者の国だ。札所で大師の遺徳をしのび、心も洗う。誠にありがたい古里の春である。