探せばどこか、いいところもあるのだろうが。夜を徹して働いても勤勉だと褒められはしない。厄介者。気の毒だが、ここでもそう扱う。マラリアにデング熱、日本脳炎と、多くの感染症を媒介する蚊である

 8月に五輪を控えたブラジルをはじめ、中南米で広がる「ジカ熱」も、彼らの働きの結果だ。予防薬や特効薬はなく、世界保健機関(WHO)は「緊急事態」を宣言した

 発熱や頭痛、関節痛が起きるものの症状は比較的軽く、1週間もすれば自然に治るらしい。ただし妊婦が感染すれば深刻である。ブラジルではジカ熱が原因とみられる「小頭症」の赤ちゃんが顕著に増加している

 折も折、多くの観光客が集まるカーニバルの時期に入った。猛威がさらに拡大する恐れがある。日本も十分な注意が必要だ

 ジカ熱のウイルスが発見されたのは1947年、アフリカはウガンダの「ジカの森」。開発や不法伐採で失われ、今では東京ドームよりやや広い程度だという。最初の流行は60年後、なぜか西太平洋ミクロネシアの島で発生した

 人跡未踏の森に人が入る。蚊が刺す。森から出られなかったウイルスが世界へ拡散していく。森林破壊が進むほど、人類が新たな感染症と遭遇する危険は高まる。厄介者を、より厄介にするのは誰か。しつこい蚊の羽音は、現代文明への警告だったか。