今ある知識で周囲の世界をうまく説明できたとき、人間は自信過剰になったり、傲慢(ごうまん)になったりしてしまうらしい。高名な科学者ですら、そうした振る舞いから逃れられなかったと、アメリカの宇宙物理学者タイソン博士が「ブラックホールで死んでみる」(早川書房)に書いている

 後年、ノーベル賞を受けた物理学者マイケルソンは1894年、<科学はまもなく終焉(しゅうえん)を迎える>と予言した。もはや全てを知り尽くしたというわけである。予言が大外れだったのは、後の科学の発展が物語る通り。とりわけ宇宙には、まだ見ぬ領域が果てなく広がっている

 アインシュタインの相対性理論「最後の宿題」とされる「重力波」の観測に、国際チームが成功した。重さのある物体が動けば、周囲の時間と空間がゆがみ、それが波のように伝わる現象で、宇宙の成り立ちにも迫る成果である

 事象の地平線のさらに先、ブラックホールのような光や電波では見られない天体も調べられるようになる。宇宙像に革命をもたらす可能性があるそうだ

 日本でも重力波望遠鏡「かぐら」の試験観測が始まる。新しい窓から望む宇宙はどんな姿だろう

 -と、知ったかぶりもここまで。知の宇宙、幾つになっても知らないことばかり。またの名を「時空のさざ波」。取りあえず、わが戒めの一つとしておく。