1054年といえば、日本は平安時代。すべての説話が「今は昔」で始まる今昔物語集の成立よりも、かなり前のことだ。遠く西洋では、キリスト教会が教義や管轄地をめぐり対立し東西に分裂した
それから千年近く、東西が歩み寄った。幾世代もが待った吉報を自分の耳で聞けたのは幸運だった。西のローマ・カトリック教会を率いるローマ法王フランシスコと、東の東方正教会で最大のロシア正教会のキリル総主教が、歴史的な会談を行った
イラクやシリアでキリスト教徒が過激派に迫害される現状を重く見たようだ。共同宣言では「神の意思の下、この会談が結束回復に貢献することを望む」として、迫害阻止と暴力、テロの撲滅を国際社会に呼び掛けた
東西の雪解けは、世俗の権力者、ロシアのプーチン大統領の意思にもかなう。大統領と親しいキリル総主教がロシアを国際的孤立から救おうとしたとの見方もある
会談の舞台はキューバの首都ハバナ。米国とキューバの半世紀ぶりの国交回復を仲介したのは法王フランシスコだ。優れた宗教者たちは、人と人が英知を寄せ合えば、不毛の対立を解消できると教えてくれる
法王は「(ハバナは)結束の首都になる」と語った。将来、各国語で「今は昔」と始まる説話では、寛容と勇気で対立を克服した賢者が輝きを放ってほしい。