河川敷のヘドロに、わだちのような2本の線が、弓なりに川まで続いている。雑誌で見た、かなり前の報道写真である
 
 添えられた記事は言う。病身の母を抱えた娘が心中を決意。年老いた母が先に命を絶った。死に装束は、紺がすりの半羽織にもんぺ姿。2本の線は不自由な足ではいずりながら流れへ向かった跡、彼女の生きた最後の証しだった。川まで連れてきた家族が、浮き沈みする母を見送った
 
 切なく、悲しい出来事は、もうたくさん。さまざまな形態の高齢者施設は、そんな願いも込めて造られたはず。人生の終盤を心安らかに過ごせる場所、少なくとも安心、安全が絶対条件だ
 
 そうした場所で、やりきれない事件が起きた。川崎市の介護付き有料老人ホームの転落死事件で、逮捕された元介護職員が入所者3人の殺害を認めたという
 
 暴行事件も相次いだ施設である。施設の体質が誘発した犯罪といえるかもしれない。元介護職員らが、入所者をどう扱っていたかは明白だろう。金を生む人形とでも思っていたか。でないと抵抗のできない人間を投げ落としたりはできまい
 
 みすみす犯行を許した警察も高齢者だからと事態を軽く見てはいなかったか。筆者も「老い」の重みが分かり始める年になった。こんな事件が起きると、しばらく考え込んでしまう。日本の老後、大丈夫か。