もう春か。阿南の椿川河口で、シロウオ漁が始まったそうだ。<明(あけ)ぼのやしら魚しろきこと一寸>。芭蕉の句など引っ張り出してみる。得意になっていたら、恥をかくところだった。辞書は引いてみるものである
<素魚(シロウオ)=ハゼ科の海産の硬骨魚。全長約5センチ。美味><白魚(シラウオ)=シラウオ科の硬骨魚。体長約10センチ。食用。素魚は外観も習性も本種に似るが別種>
広辞苑の言う「美味」と「食用」、この差は如何(いかん)。躍り食いで知られるのはシロウオ。しかしシラウオをシロウオと呼ぶ地方もある。ちなみに氷魚(ヒウオ)はアユの稚魚らしい。詩歌も含め、その辺は割に柔軟なのだろう
何匹かすくい、ポン酢に浸せばぴちぴちと。ままよと放り込んでも口の中で命が躍る。日頃は肉だ魚だと、平然と食しているのに、今更あわれとは勝手なことながら。寸魚に教わる命の貴さである
<白魚入舟>。「はくぎょふねにいる」と読む。中国・周王が殷(いん)を討とうと川を渡っている最中、白い魚が飛び込み、白を国の色とする殷が滅びる前兆となった。シロウオとは違う魚だろうが、ついでの便で。近づく春に吉兆よ舞い込め
白魚は春の季語。これが白魚一寸となれば、まだ冬である。寒さへの警戒が怠れない時季。一層ご自愛のほどを。<白魚やさながら動く水の色>来山。