「私はうそを申しません」の名言で知られる池田勇人元首相は、1964年秋、「慢性喉頭(こうとう)炎の治療と検査」の名目で入院した。その後、病院側は「のどに良性の腫瘍(しゅよう)がある。前がん症状」と発表した

 医師らが考えた苦肉の症状だが、実際はのどや食道のがんで、翌年亡くなった。本人にも告知しなかったので、うその発表でも同情の余地はあろう

 では東京電力は? 福島第1原発事故の発生当初、原子炉の状況を「メルトダウン」(炉心溶融)ではなく、前段階の「炉心損傷」だと説明し続けたことを、今ごろになって、誤りだったと発表した

 東電は「基準に照らせば事故4日目の2011年3月14日の段階で炉心溶融と判断できた」という。肝心の判断基準の存在をこれまで5年間、見過ごしていたとか。苦肉の言い訳にしても、出来が悪すぎる。素直に国民が信じるとでも思っているのだろうか

 「炉心溶融」を「炉心損傷」としていたのも、「前がん症状」と同様に、その場しのぎの感が強い。違うのは、東電に巣くうのは不誠実という名のがんで、病巣を見つけて切除すれば、再生の可能性があることだ

 長年、安定経営が約束されてきた電力会社のおごりとプライド、悪癖が複雑に絡み合った病巣をほぐし、摘出するのは容易ではないだろう。執刀に当たる名医はどこにいる。