白装束の歩き遍路の姿を早くも見掛けるようになった。次の札所への小さな旅を重ねて、四国をぐるりと時計回りに1400キロ。結願するのは春の終わりだろうか

 そうした長旅になかなか出掛けられない身としては、紀行文学にふけることが慰めである。米小説家スタインベックの「チャーリーとの旅」(ポプラ社)は傑作の一つに数えられよう

 貧しい農民の苦しみを描いた「怒りの葡萄(ぶどう)」などで知られるノーベル賞作家が晩年、米国を東海岸から反時計回りに旅した作品だ。こちらは愛犬チャーリーを連れて1万6千キロ、キャンピングカーで4カ月の行程である

 自分の国を見つめ直したいとの思いで始め、行く先々で多くの人と出会い、地域社会や自然に触れる。悲しい出来事への感想や優しさへの感謝を通じて、1960年ごろの米国の現実が浮き彫りになった。最終盤、南部の州では激しい人種差別の様子が描かれ、ページからは怒りがあふれ出る

 米国一周は、喜怒哀楽に富んだ「ミニ人生」ともいえるものだった。スタインベックが手にしたような達成感、それを味わえることが歩き遍路の魅力の一つなのだろう

 きょうから3月。卒業や定年退職など、それぞれが歩んできた小さな旅にピリオドが打たれる。思い出を胸に次の目的地へ向かう全ての人に贈りたい。「いい旅を」。