「それでもジャーナリストは現場に行くべきだ。紛争地帯で取材し、事実を伝えた結果、現地で何が起きているのか、問題は何かが明らかになる」。昨年初め、シリアで過激派組織「イスラム国」に同業の後藤健二さんらが殺害された後、ジャーナリストの安田純平さんはそう語った

 「それでも」の思いは揺るがない。数カ月後、安田さんはトルコ南部から、内戦取材のためシリアに越境した後、消息を絶った

 安田さんとみられる映像に接して、拘束情報は本当だったのかという残念な思いと、生きていてよかったという気持ちが交錯した。安田さんは妻や父母らへの思いを語り「みんなを抱き締めたい」と話した。「でも、もうできない」との声を聞き流すことはできない

 国際テロ組織「ヌスラ戦線」が身代金を要求し、日本政府に交渉を求めているとの情報もある。菅義偉官房長官は「身代金要求は承知していない」と述べたが、起こり得る事態だ。人命が最優先である

 シリアでは2012年8月、ジャーナリスト山本美香さんが銃撃戦に巻き込まれて死亡。アサド政権側の部隊の関与も指摘された

 どこで誰に狙われるかも分からない紛争地域から、戦闘行為や迫害される市民の様子が日本に届けられる。銃弾をくぐる取材・発信者が、血の通った生身の人間のほかにあり得ようか。