「松上の鶴」は古来、掛け軸などによくある、おめでたい画題。松にとまった首の長い鳥の向こうに真っ赤な日が昇る、あの構図といえば、何となく思い起こしてもらえるだろうか
 
 松と鶴。どうやら、いにしえの画人の勘違いだったようである。鶴は本来、湿地や草地にすみ、地上に巣を作る。樹上にいるのはコウノトリ。それを見誤り、めでたい図柄に仕立て上げてしまったらしい
 
 さて、こちらのコウノトリは電柱の上。兵庫県豊岡市から鳴門に飛来した人気者が産卵したようだ。官民でつくるコウノトリ定着推進連絡協議会が「19日に初卵を産んだと推定される」と発表した
 
 国内の野生種は1971年に絶滅している。以来、野外での産卵は保護繁殖、野生復帰に取り組んでいる豊岡市周辺以外では初めてだという。松ならぬ電柱。だからといって、いささかもめでたさの減じることはない春の慶事である。よくぞこの地を選んでくれた
 
 雌雄2羽で、かいがいしく卵の世話をしているそうである。産卵時期は特に神経質になるらしい。遠くからそっと見守ってやりたい
 
 明治大正の歌人、木下利玄のこの歌も勘違いの延長上にあるかも。<松の梢に山の風鳴れば羽ばたきて巣立たんとする鶴の雛かも>。無事ふ化し、徳島の空に羽ばたきて巣立たんとする日を、首を長くして待ちたい。