13世紀、ドイツのハーメルンの町から多くの子どもたちがこつぜんと姿を消した。笛を吹く男に連れ去られたらしいが、行方はついに分からなかった。今に伝わる「ハーメルンの笛吹き男」である

 この話を思い出すのは決まって、行方不明の子どもが見つかったとのニュースに接した時。2年前、下校途中に行方不明になった埼玉県朝霞市の女子生徒が東京都内で保護された。千葉市で長期間、男に監禁されていたようだ。中野区に転居後、女子生徒が逃げ出し110番した

 身柄を確保されたのは千葉大工学部を今月卒業した男で就職も決まっていた。女性の自由を奪っておきながら、自分の未来が開けるとでも思ったか。あまりに愚かだ

 連れ去る際、男は女子生徒の名前を呼んで声を掛け、「お父さんとお母さんが離婚する。弁護士のところに自分が連れて行く」とうそを言ったという。埼玉県警は、女子生徒が応じなかったため、無理やり誘拐したとみている

 笛の音ではないが、手練手管と巧みな言葉で誘惑し、うまくいかなければ最後は力ずく。そんな卑劣な犯行を社会全体で防ぎたい

 犯罪者は市民の仮面をつけて、居場所を選ばない。事件の教訓だ。街角で、隣室で、誰かが助けを求めるサインを出していないか。「まさか身近で」との思いが心に目隠しをする。注意が肝心だ。