都へ、都へ。東京へ行きさえすれば何とかなる。明治の歌人石川啄木もそう思っていたに違いない。こんな一首を残している。<新しき明日の来るを信ずといふ自分の言葉に嘘はなけれど->

 都を目指したかつての若者たち。幸福研究などで知られる広井良典さんはこれを「地域からの離陸」と呼ぶ。それも転換期に差し掛かっている。徳島県民の「幸福度」を探る本紙アンケートを分析してくれた2年前、そう指摘していた。実際、自分の教え子たちもローカル志向が顕著になってきたという

 きのう、県内の多くの企業で入社式があった。東京への流れに抗し、徳島で働こうという若い人たち。広井さんの言を借りれば「地域への着陸」である。そんな姿は頼もしく映る

 広井さんも千葉大教授から、鎌田東二さん=阿南市出身=が定年退職した京都大こころの未来研究センター教授に就いた

 研究分野を大きく広げ、これからの時代の真の豊かさや幸福の意味、社会システムや政策のあり方を、「こころ」を含めて幅広い視点から掘り下げていくという

 人口減少など地域の課題は山積している。これからの時代の豊かさや幸福感をいかにして得るか。「新しき明日」と密接につながっているだろう。啄木は望み通りにはいかなかったが、今春の新入社員は、さて、どんな未来を切り開く。