1通の便りを思い出している。15年余り前、国がハンセン病の隔離収容政策の誤りを認める前のことだ。確かこんな文面だった。「この病を忌み嫌う有史以来の因習は根強く、帰省すらかなわぬ人がいるのです」

患者、元患者への差別は社会総掛かり。「人権の番人」であるべき裁判所も例外ではなかった。「特別法廷」の問題を検証していた最高裁は不適切な点があったと認め、元患者への謝罪を検討しているという

有名な事件がある。1953年、病気を密告した男性を殺害したとされる一人の患者が、熊本県の国立療養所菊池恵楓園に設けられた「特別法廷」で死刑判決を受けた。「藤本事件」である

いかに普通でなかったか。取調官はほとんど被疑者の言い分を聞かない。近寄れば感染すると思い込んでいたからだ。特別法廷では、被告以外は白い予防着にゴム手袋、ゴム長靴。調書は火ばしでめくったという

いわれのない恐れが支配する中で、まともな裁判が行われようはずがない。患者は無実を叫び続けたが62年、刑は執行された。あまりに差別的とは、今だからこそいえるのだろうか

因習に染まれば決して因習は見えない。先年亡くなった元患者がよく言っていた。「誰に気づかれることもなく、苦しみ続けている人がきっと今もいる。ハンセン病だけやありゃせんで」。